この4月に高年齢者雇用安定法が改正され、企業では70歳定年へ向けて準備することとなりました。
その一方、企業では新型コロナウイルス感染拡大でテレワークが広がったことを契機に、従来のメンバーシップ型からジョブ型雇用への移行を模索しています。
70歳定年の方向は、ジョブ型へ移行する大きな契機と考えられます。
能力の限界は30~40代ってホント?
日本生産性本部が以前、日本・アメリカ・イギリス・ドイツの大手企業の研究所で働く技術者を対象に、技術者として第一線で活躍できるのは平均的に何歳ぐらいまでかという質問をした結果が公表されています。
それによれば、日本では30代後半と40代前半が合計で6割を超えるのに対し、他国では約1割以下です。また、他国では年齢に関係ないとの回答が7割以上を占めています。
常識的に考えて、日本人と欧米人の間に脳の器質的な大差があるはずはありませんし、教育制度や仕事内容に差があるとしても影響は限定されたものです。
加齢による能力低下は制度の産物
この違いの大きな理由は、雇用制度による見せかけの限界と解釈されます。
人間の頭脳は、使い続けているかぎりは加齢によって急激に衰えることはなく、年を重ねても少しずつ成長していくという説すらあります。
その一方、日本のような年功序列制度では、50歳前後までは給与や職位が上がり続けます。その結果、能力が年齢とともに徐々に上がっていっても、給与や職位がそれ以上に上昇するので、結果として能力とのギャップが徐々に拡大します。
つまり、40代~50代になると、給与や職位に見合った貢献が出来なくなります。そこで能力の限界やギャップが指摘されることになります。
60歳以降はジョブ型採用のチャンス
一人ひとりの社員が、それぞれの能力や成果に見合った報酬を受け取りながら、年齢に関係なく働き続けるためには、年功序列制を抜本的に見直すことが必要となります。ここ最近注目されているジョブ型の導入も、この延長線上として捉えることができます。
一方、年功序列制を基調とした共同体型組織・マネジメントを改革するのは至難の業です。長年脈々と培われた、わが国特有の労使関係や法制度などが、厚い壁となって立ちはだかっているためです。
企業が本気でジョブ型へ移行しようとする場合は、共同体型組織そのものを解体する覚悟が必要です。ただし、現体制のままでも、共同体の外であれば、ジョブ型を導入することが可能です。
これまで、多くの企業が60歳定年後は、社員を契約社員や嘱託などで再雇用してきたので、60歳前後になれば、そのまま社員の身分を残してジョブ型へ移行することに抵抗は少ないと考えられます。
ジョブ型によって定年制廃止も可能に!
抜本的な解決策として、60歳前後からジョブ型を選択できる制度を採用することが挙げられます。
個々の能力次第で、70歳、あるいはそれ以上になっても企業で働き続けられるよう、制度を組み立てるのです。実際、年齢差別が禁止されているアメリカでは、70歳前後になっても第一線で社員として元気に働いている人は多数います。
その際のポイントとしては、従来の再雇用のように給料を大幅ダウンさせるのではなく、能力次第で報酬が決まる仕組みを作ることが重要です。これにより、60歳以前よりむしろ給与や権限が高まるケースも出てくるはずです。
ジョブ型へ移行することで、企業側にも大きな負担がなく、高齢者の貴重な能力うあ労働力を活用できるメリットが生じます。
まとめ
今後、60歳前後からのジョブ型制度による取り組みが成功すれば、やがて60歳以下の年齢層にも同様の選択肢を広げていくことが可能となります。
いきなり拙速に会社全体に同制度を導入しようとすると、厚い壁や旧習などに阻まれて制度が骨抜きにされ、失敗してしまうでしょう。
中高年や非正規、また関連会社など、共同体の外側から、ジョブ型を拡大させる戦略によって、70歳定年への移行がむしろ好機ととらえられるでしょう。
参照:日経BizGate