約1000人の社員をたった1週間で在宅勤務に切り替えた企業の名は、株式会社エイチーム。
インターネットやスマートデバイスを通じて「エンターテインメント事業」「ライフスタイルサポート事業」「EC事業」の3つの軸で展開している総合IT企業です。愛知県を拠点に、東京・大阪・福岡にもオフィスを構えています。
今回は、在宅勤務移行の取り組みの第一線で指揮を執っていた人事部長の中久木健大さんにお話を伺いました。
わずか1週間足らずで全員の在宅勤務を実現させた、その具体的なプロセスと方法とは?
Q.今回の在宅勤務導入はいつ頃から始められたのですか?
―全社員が完全在宅勤務に移行したのは2020年4月6日からです。もともと、3年ほど前から働き方改革の一環として、育児や介護など特別な事情がある場合のみ在宅勤務は認められていたのですが、本当に一時的なものでした。
コロナが報道されるようになった2020年1月下旬から、経営会議ではちらほら話題にのぼりはじめて。2月の中頃から事業イベントの中止が決まったり、採用活動もオンラインに切り替えるなどしました。その時から毎週月曜日に全社員が集まって行っている「全体ミーティング」を中止したり、出張を控えるといったことも始めていましたね。
2月末には、希望者の在宅勤務は許可していました。3月に入って世の中の状況もかなり厳しくなり、本社ビルの別フロアで感染者が発生したとの情報が入ったこともあって、危機感はさらに高まりまして…。これはもう4月6日から全社的に在宅勤務にしようと決めました。それが3月30日のことです。
Q.在宅勤務に移行するにあたっての役割分担、全体の指揮はどのようにとっていったのでしょうか?
―これは在宅勤務への取り組みに限らずなのですが、常日頃から”社員の声を聞くこと“や“情報共有”をとても大事にしています。みんなの声のもとに動いているというメッセージをあらゆる場面で発信しているんです。
今回の在宅勤務についても、1月末からの動向から、なぜ導入することになったのかという理由、その意思決定にいたるまでのプロセス、今後について考えていることなど、すべて共有していました。全体に向けて常に情報発信をしながら理解を得ていったという感じです。
Q.特にここは苦労したという部分はありますか?
―正直、あの時のことはあまり覚えてないんです(笑)。一つひとつ、目の前にある課題、自分がやるべきことを必死で対応していたという感じでした。実は、全社員原則在宅勤務の開始を決めた翌日に、なんと、社員で感染者が発生しまして…。これは何が何でも、できるだけ早く完全在宅勤務に切り替える、切り替えなければならないということになりました。
まずPCを送るための段ボールが必要だ!と。ノートPCならまだしも多くの開発メンバーが使っているデスクトップPCをどうやって送るんだ?とか。本当にそこからでした。
大変だったという部分では、もともと短い期間で移行させる予定だったことに加えて、実際に感染者が出てしまったことでより一層スピード感をもってやらなくてはならなかったという点ですね。感染者が出たことによる保健所の対応、社内消毒するなどももちろんはじめてでしたし。加えて、4月1日には57名の新卒が入ってくるその準備もある。それでも6日には移行させなければならない、そういった部分ですね。
在宅勤務は「社員の声」で意思決定!気になるアンケートの中身!
Q.在宅勤務になってから、社員へのフォローアップについてはどのような取り組みをされていますか?
―在宅勤務に移行してすぐの4月のタイミングで1回、時間をおいて7月にもう1回、全社員にアンケートを取りました。その声をもとに経営会議で今後どうしていくかを決め、私が全社員に向けてメールで発信しました。
加えて、全社員参加の全体ミーティングの中で、社長から「今回こういう声があがってこうなったよ」ということを直接伝えました。
直接、顔を見ながらいろんなことを伝えられる全体ミーティングでは、単なる業務連絡だけではなく、物事の決定までのプロセスやどんな意見があって、どんな考え方をしているのか、といった事もオープンに伝えるようにしていますね。
Q.アンケートはどのような内容なのですか?
―項目については、コーポレート部門内で相談しながら、作っていきました。業務面に加えてQOL(quality of life)などのプライベート面についても聞いており、全般的な影響を拾えるようにしました。例えば業務面では、業務指示、業務把握、情報共有について、メンバー視点とマネジメント視点で把握しました。
他には、生産性や帰属意識の変化、対面・テキストのコミュニケーション変化について聞いています。プライベート面ではQOLの変化やその理由、身体面・精神面での健康状態の変化などを聞きました。
フリー回答欄も設けて率直な意見や要望を拾い上げています。アンケート結果は、全体ミーティングでみんなにお見せして、内容を共有しています。
Q.社員の心境の変化、労働環境の変化はありましたか?
―これについても、社員にアンケートを取って現状を把握し、在宅勤務前と後でどのような変化があったのかを定量的に測っています。
良くなったこと、悪くなったこと、変わらないことなど、項目によって変化はありますが、おおむね、在宅勤務でも業務効率や仕事の質という部分では変わらないという結果になりました。ただ、やはりコミュニケーションの部分ではやりづらさを感じるという意見もあり、その部分は課題の一つかなと思っています。
社員が納得する在宅勤務の「意思決定プロセス」とは?
Q.現在はどのような働き方になっていますか?
―現在は、約9割が在宅勤務です。対面接客を行っているブライダル事業のメンバーや、個人情報の持ち出しができず物理的に在宅勤務が難しいコールセンター事業のメンバーについては、出社という形を取っています。
1回目のアンケートを取った後の5月末に、2020年8月末まで在宅勤務を続けるという方針を伝えました。そして2回目のアンケートをもとに、どういう変化や課題があったのかという現状を理解した上で、来年2021年7月末までは現在の在宅勤務方針を継続するという結論を出しました。
今後の世の中がどうなっていくのか我々もわからないので、状況を見ながら慎重に延長を判断していったという感じですね。
Q.在宅ができない部署から「なぜ自分たちだけ」といった反発はなかったのでしょうか?
―基本的にはなかったですね。アンケートを取った中では、確かに「自分たちも在宅勤務できればいい」という意見もありました。ただ「なぜ自分たちは在宅勤務できないのか」という理由について、そもそもみんなわかってくれているんだと思います。
会社としては、アクリルパーテーションを準備したり、マスクを用意したり、やれることはしっかりとやっているということが彼らにも伝わっているのだと感じます。
個人情報の関係で難しいという部分についても、責任者が提携先の会社に何度か掛け合っているんです。「なんとかならないか」「こうやったら実現できないか」など、どうしたらできるのかというのを多々掛け合ったうえで、そこまでやっても現状では難しいという結論ですが、そういったプロセスについても共有しているので、みんなわかってくれているんだと思います。
Q.社員のみなさんが自発的に、当事者意識を持って取り組んでいらっしゃる印象がありますね。
―そうですね。コロナについては、みんなかなり自分事として危機感を持っていました。3月の時点で派遣スタッフに感染の可能性ありとなり、かなりバタつきました。もし感染していたらこうしようと、いろんなシミュレーションをしていたんです。
その後、陰性だったということがわかり安心はしたんですが、この先、本当にかかってしまったら事業が止まって大変なことになるなと感じました。本気で在宅勤務に移行させないといけないなと。
そして「移行しよう!」と決めた翌日に社員の感染がわかり…。ジリジリと忍び寄ってくる危機でしたし、対岸の火事ではなく自分事として、一つひとつ着実に準備し取り組んで進めていけたからこそ、在宅勤務へ移行できたのだと思います。
社員の信頼感に直結するカギは、意思決定した「理由」
Q.保障や制度面で、今回で大きく変わったものや新しく取り入れたものはありますか?
―通勤交通費の支払い方を大きく変えました。これまでは半年分の定期代の前払いでしたが、出社日が減ることもあって実質出社日の日額を支払うようにしました。
それらを試算した結果、削減できる費用を原資として、新しく業務支援手当を作りました。社員全員に月額3,000円、アルバイトの方へも月額1,500円を支払うようにしました。在宅勤務の人もいれば、出社して働いている人もいるので、自宅の光熱費でも食費でも、コロナ禍において業務をスムーズに進めていただくために必要な事柄に、自由に使っていいという位置づけです。
また、特別報奨金の支給も考えています。4月に在宅勤務に移行した際、会社としての手立ても行き届いていない中でそれぞれが状況に適応しながら事業を止めることなく尽力してくれました。とても大変だったと思うんです。
後からの支援にはなってしまいますが、一律5万円の支給を予定しています。
Q.コストを削減した分は、今後の会社の資金として留保するケースも多いですよね?
―そうですね。これはもう社員への想いや思想的な部分に近いのかもしれませんね。ただ、それも会社が損をしたり、何か犠牲を払って社員に還元するというのでは長続きしないと思うので、コストダウンした中から、これであれば払えるという試算をきっちりしたうえで出しています。
あとはやはり、他社さんの動向なども参考にしています。
ただし、それはあくまでも参考であって、払う払わないいずれにしても、なぜ払うのか、他社が払っていてもなぜうちでは払わないのか、という理由はしっかりと伝えますね。
Q.決定に至るまでのプロセスや「やる・やらない」の理由について、会社がきちんと説明してくれるというのは信頼感につながりますね。
―もちろんその時々で決定できていないこともあります。そういうときであっても「今この状態です」「今後みなさんの声を聞いて検討していきます」といったメッセージを発信していますね。
「みんなで経営について考える」という文化があるので、それを実現するために、情報はオープンにしています。そうでないと、一人ひとりが当事者意識をもって考えられないと思っています。ですから、全体ミーティングでは経営情報もかなり細かいところまで伝えているんです。
そのうえで、みんなの声も聞き、検討状況も踏まえて伝え、決定したらその結果、決定の背景はこれです、と伝える。そうすることで、たとえ出した意見が決定内容と違ったとしても、ちゃんと声は届いているんだなとわかってもらえると思っています。
そういうコミュニケーションをしていくことで、経営に対する当事者意識も生まれますし、決定した内容を受けて「自分たちは何ができるんだろう、何を貢献できるんだろう」と考えてくれるようになるのだと思います。
実際に、手当の件と来年7月末までの在宅勤務方針を発表した後に、多くの社員から感謝の言葉とともに、どうやって自分たちが貢献し、会社に還元していくか、という内容のメッセージが届きました。社員のみんなも会社の想いを受け取ってくれていて、とてもいい関係性だなと思いましたね。
Q新しい制度やシステムを取り入れたり変更する際の決定は、すぐに行えたのですか?
―もともと、何か新しいものを取り入れたり、変更するといった際の承認はとても速いほうだと思います。この時は特に爆速でしたね。
今回であれば、通信インフラのトラブル対応もそうでした。もともと少数の一時的な在宅勤務に対応する程度のインフラしか想定していなくて、それが一気にアクセスが増えて耐えられない!という状態になってしまいました。このままだと在宅勤務ができなくなるかもしれない危機的状況でした。
それが判明してすぐに担当部署の責任者が、社長に電話をして「今通信インフラがこういう状況なので、変えないと無理です!変えていいですか?」と言うと、社長も「わかった!お願いします!」と。すぐさま変更対応に動いて、休日の夜間に一気に変更しました。
これでダメだったら、月曜から約1000人が仕事ができなくなってしまうという不安を抱えながら、なんとか無事に変更が完了して、月曜の朝には全社員が何事もなく仕事ができていました。この部分、社員はあまり知らないんですけどね(笑)。
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