約1000人の社員をたった1週間で在宅勤務に切り替えた企業の秘密に迫る[後編]

約1000人の社員をたった1週間で在宅勤務に切り替えた企業の名は、株式会社エイチーム。

前編では、在宅勤務導入に向けて社員の理解が得られるようにアンケートを実施したり、経営陣の意思決定プロセスを共有するなど、具体的な導入プロセスについて解説いただきました。後編では、在宅勤務を導入してからのルールや組織づくり、そして導入で見えてきた今後の課題についても語っていただきました。

前編はこちら

在宅勤務ツール利用ルールは最小限、自主性を尊重するための組織づくりとは?

Q.在宅勤務が始まって新たに導入したツールやおすすめのシステムなどはありますか?

―もともと、社内コミュニケーションツールとしてChatwork(チャットワーク)を使っていました。一部、エンジニアの部署ではテスト的にDiscord(ディスコード)を使っていたりします。今回在宅勤務にあたって、本格的に導入したのはやはりzoomですね。全体ミーティングも、現在はウェビナーを使って実施しています。

Q.在宅勤務に必要な環境整備として、何か取り組まれましたか?

―社員の自宅ネット環境はさまざまで、インターネット回線引いていないとか、容量制限のあるWiFiだとか、いろいろありました。

基本的には、各自で環境を整えてもらっていますが、エイチームの子会社でインターネット回線の代理店事業を行っているので、そこから契約をしていただいたら、会社から補助金をお支払いするという福利厚生制度も急遽作りました。

Q.在宅勤務の業務の進捗管理や効率的に進めていくために、工夫されていることはありますか?

―zoomの活用方法は部署ごとで、工夫して取り組んでくれていますね。常時接続の部屋を作っているところもあります。

「ウェブ会議やミーディング、情報共有の場では全員カメラはONにしましょう」というガイドラインだけは提示しました。当初はカメラをオフのまま参加するという人もいたのですが、やはりそれだと表情もわからないし、参加しているほうも緊張感がなくなってしまいます。

カメラが付いていないデスクトップPCを使っている人もいたので、そういう方向けに会社でWebカメラを用意し貸与しました。

全体で方針を出しているのはそれくらいで、あとは部署ごとに任せていて、それぞれに活用事例がでてきているので、良い取り組みは横展開しています。

弊社には「チームラーニング」という、社員同士が自らの知見を教えあい学びあう研修制度があるんです。それを活用して、例えば「もっと便利にZoomを使う方法!」とか「●●さん直伝!リモートでもエイチームらしく働く!」といったテーマで、社員同士で教えあって横展開しています。こういった活動はオンラインになってよりやりやすくなりましたね。

※在宅勤務によってポジティブな変化も

在宅勤務導入5カ月で見えた「今後の課題」

Q.一方で、在宅勤務導入して5カ月が経って、当初は予想していなかった課題などは出てきましたか?

―懸念がなかったわけではないのですが、事業部を超えたコミュニケーションが減っているところは課題ですね。

特に新卒社員たちは入社以来ずっと在宅勤務で、同期同士でもまったくリアルで会えていないので横の関係性が作りづらいんですよね。業務上のコミュニケーションはあまり問題ないのですが、在宅勤務では、事業部や部署を超えた関係性ができにくいと感じています。

今は、いったん1年間の在宅勤務という判断をしており、未来永劫ずっとこの働き方で、とは言っていません。その理由は、エイチームの強みである、事業を超えたグループとしての一体感、それを支える「コミュニケーションインフラ」という大切な資産を消費しながら成立しているなと感じるからです。

短期的には問題は起きにくいですが、中長期的にでてくるかもしれないズレや違和感を、潰していかないといけない。常にそういう懸念は持っていますね。

※部を超えたコミュニケーションも大切

Q.現状、「在宅勤務1年間」という期間を設けているのは、そういった理由からですか?

―はい、そうですね。誰しも所属している組織の中で、周りの動きを見ながら自分の行動を考えたりすると思います。まさに「他人の振り見て~」、そういうことの積み重ねで組織としての文化や一体感が生まれると思います。

ですが、在宅勤務だとなかなか「他人の振り」が見えなくなってしまって、自分だけの価値観になってしまう恐れがあります。そうなってしまったら、「エイチーム」に所属する意味って?会社ってなんだろう?ということになってしまいますよね。

ですから「そういったことが起きるかもしれない。」「一体感が失われてしまうかも」という危機感を一人ひとりがもって、そうならないように課題をつぶしていきましょうと。そのため、「1年」という期間を設定しました。

基本的にはみんな仲が良いし、業務は進んでいくし、たいして不具合も起きていない。ただ、それはあくまでも短期的なところであって、これが長く続いていったら、小さなズレが大きなズレになっていく危険性があります。それをみんな意識していこうというメッセージは伝え続けています。

※社員同士の仲が良く、人が集まる社員食堂

Q. コミュニケーションや人間関係の変化を数値的に測るという取り組みはされているのですか?

―今の時点ではできていません。新卒社員については、定期的に面談をしてコミュニケーションを取っていますが、全体として定点的に意識のズレをどう測って発見していくかはこれからになると思います。

Q.職場の雰囲気や企業カルチャーの浸透には、リアルの必要性を感じていますか?

―感じています。実際に起きていることとして、今年の新卒社員は、配属された子会社・事業部所属という意識がつよく、エイチームグループの新卒社員という意識が弱いように感じています

身近で知っているのは直属上司や先輩だけ。彼ら以外との接点が少ないので、他部署にいるエイチームの先輩たちの姿が見えず、多様な価値観や様々な人がみせる「エイチームらしさ」に触れる機会が少ないからかもしれません。

他部署の人やお客様に明るく挨拶する、ゴミ袋がいっぱいなら自分たちで交換する。コピー機の紙が切れていたら補充する。立場や役職関係なくこういった行動している様子を見て、「自分がやろう」と思うようになるとか。

そうしたカルチャーや空気感って、「これはこう!」と言葉で言うより、職場内の雰囲気や社員同士のやり取りの中でお互いが感じて、伝わっていくものじゃないですか。そういう意味では、リアルな場は一定必要だと感じています。

※こうした工夫からも社風やカルチャーが感じられる

Q. 在宅勤務によって、従業員の配置転換はされたのでしょうか?

中長期的には必要かと思っていますが、現状はまだやっていませんね。3~6月くらいまでの間は、これがどこまで続くのか、この先どの程度影響が出るのかがわからなかったので。

ブライダル事業については、3月と4月はお客様が現実的に訪問できないという状況もあったので、100%休業補償を出しながら雇用をつなぎとめるという形でやっていました。

Q.在宅勤務による本社の縮小や移転などは、今後検討されていますか?

―やはり使っていないスペースはもったいないので、検討しています。
コロナ以前の働き方に戻るかと言えば、戻らないんじゃないかなと思っています。これからの働き方として、一定の在宅勤務やリモートワークを取り入れていくのは、当たり前になるんじゃないでしょうか。

こういう働き方を知ってしまった以上、毎日必ず出社するというのは難しくなると思います。一方で、リアルな場の重要性もあるので、ずっと毎日100%在宅にもならないと思います。うまく落としどころをつけて節約していきたいと考えています。

オフィスというモノがあることで、会社としての一体感が感じられるということもあると思います。弊社であれば、社員食堂は社員同士の交流の場になっています。今後、物理的なオフィスは、仕事をしに来るワークスペースというよりも、もっとハートフルな、人と人をつなげる場になるのではないでしょうか。

※ワークスペースとしての場から、人と人をつなげる場へ

Q.また、朝礼や会議といった「人が集まるリアルな場の価値」は上がっていくと思われますか?

―はい、今まさにそう感じています。これまでは、出社して顔を合わせて会話することが「当たり前」でしたが、実は「有難い」ものだった。

まさにそれを身に染みてわかったので、人と人が信頼関係を作って一体感を感じられる場、集う理由が存在するというのは強みだとも思っています。

これからリモートワークを取り入れる組織に伝えたい、大切なメッセージとは?

Q. 今後、リモートワーク導入を考えている経営者、担当者の方に、アドバイスやヒントになることがあれば教えてください。

―便利なツールやリモートワーク事例がたくさんあるので、それをみて「うちも真似してみよう」とやってしまうかもしれませんが、それはあまりオススメしません。

「なぜそういう判断をするのか」という理由を伝えることが大事だと思います。社員のみなさんは、「なぜの理由」が一番気になっていると思うんです。また、あわせてリモートワーク導入によって懸念していることなどを伝えていくことも大切だと思います。

弊社で言えば、先ほどの長期的なズレや違和感の話。
今はまだ顕在化していない懸念ですし、本当は社員にわざわざ言わなくてもいいのかもしれません。

でもあえて言うことで、みんなが意識して「これは良くない」とか「防ぐためにどうしよう」と考えて対処していってくれると思うんです。そうすることで、1年後にその懸念はなかったね、となれば、みんなにとって良い結果だと思うんです。

また、リモートワークを主導する人事部門や管理部門が、しっかりと経営層と握れているか、社長や社員の想いを汲み取れているかも重要かと思います。

ツールや事例を真似して取り入れていくよりも、「なぜの理由」や感じている懸念を社員に率直に誠実に伝えていくことのほうが、よほど大切なのではないでしょうか。

最後に

「意思決定が早く、その決定に至ったプロセスや理由をしっかりと社員に伝えている」これが、エイチームがたった1週間で1000人もの社員の在宅勤務を可能にした大きな理由だと感じました。

その土台を支えているのが、社員の声を聞き、みんなで会社の経営・未来を考えていくという強い理念。新しい取り組みを始める際、意見の相違や反発があるのは当然のことです。それらをないがしろにせず、しっかりと汲み取り、組織として意思決定の理由とプロセスの説明を怠らないこと、それが大切ではないでしょうか。


<今回インタビューした企業>

株式会社エイチーム(Ateam Inc.)


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